最近、「DX」という言葉を耳にしない日はない。
テレビをつけても、新聞を読んでも、勉強会に行っても、どこかに必ず転がっている。だけど、その言葉を聞いた瞬間に、ふっと視線を泳がせる社長さんがいる。
「ああ、また出たか」
そんな小さなため息が、聞こえるような気がする。
地方で商売をしている社長さんと話していると、だいたい決まってこう言われる。
「やらなきゃいけないのは、分かってるんだけどね」
その「だけど」の後ろには、いろんな気持ちがぶら下がっている。
よく分からない。怖い。忙しい。今さら変えるのがしんどい。
たぶん、その全部だ。
僕はシステムの仕事をしているけれど、胸を張って「ITのプロです」と言うタイプではない。
どちらかというと、社長さんの横に座って、「じゃあ、何が一番大変ですか」と聞く係だ。
できれば、難しい言葉は使わずに。
道具は新しくなっても、商売の基本は変わらない
社長さんが何十年も続けてきた商売には、ちゃんと理由があるはずだ。
この順番でやる。この紙に書く。この人に最後を任せる。一つひとつが、失敗と工夫の積み重ねだと思う。
そこへ突然、
「これからはデジタルです」
「効率化しましょう」
と言われたら、そりゃあ身構える。
今まで大切にしてきたものを「古いですね」と言われているような気がするからだ。でも、本当は違う。
古いか新しいかの話じゃない。
楽になるかどうか、の話だ。
社長さんの頭の中にある「商売の勘」を、もう少し楽に、もう少し正確に動かすための道具。
それが、たまたま今はコンピューターだった、というだけだ。
「お任せ」という言葉の裏にある、本当の不安
「ITのことは分からないから、任せるよ」
そう言われるときの社長さんの顔は、少しだけ寂しそうだ。
信頼、というより、「もう考える元気がない」に近い。
何を頼めばいいのか分からない。何が正解かも分からない。失敗したら、誰にも相談できない。それは、けっこう心細い。
システムづくりは、家づくりに似ている。
どんなに腕のいい大工さんでも、「どんな家に住みたいか」が分からなければ、何も作れない。
社長さんに聞きたいのは、専門用語じゃない。
「どの作業が一番しんどいですか」
「なくなったら助かる仕事って、何ですか」
それだけでいい。
愚痴みたいな話の中に、だいたい宝物が転がっている。
若手の「新しい感性」は、会社の宝物
地方の会社には、ときどき小さな救世主がいる。スマホをさっと取り出して、何やら操作している若い人。
「これ、アプリ使えば一瞬ですよ」と、さらっと言う。
その声を「生意気だな」で終わらせるのは、もったいない。
彼らは、社長さんが守ってきた商売を「今の時代の言葉」に直してくれる通訳かもしれない。
社長さんが行き先を決める。若い人が道具を見つける。僕みたいな人間が、形にする。
それくらいの分担が、ちょうどいい。
結論:DXは、社長が「楽」をするためのもの
DXという言葉は、少し威張りすぎている。
本当は「社長さんが楽をするための工夫」くらいでいい。
事務作業を機械に任せて、人は人の仕事をする。
それだけの話だ。
「うちは昭和だから」と笑う社長さんがいるけれど、昭和から続いている会社は、それだけですごい。
しぶといし、強い。
そこに、ちょっとだけ便利な道具を足す。
僕は、そのお手伝いがしたい。
「よく分からないけど、これ、面倒なんだよね」
その一言からで、十分だ。
横文字は、あとで僕が片付ける。
……そんなことを考えながら、今日もキーボードを叩いている。

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